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村上春樹『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』

 一冊の本を紹介させてください。
 村上春樹『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』新潮文庫 2002年(平成14年)。
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 著者の村上春樹に関して、改めて云々するまでもありませんね。
 いえいえ。半可通を気取るばかりか、この人の本をほとんど読んだことがありません。雑誌『芸術新潮』に連載していたエッセイをまとめた『ポートレイト・イン・ジャズ』と、トルーマン・カポーティの短編小説『あるクリスマス』の翻訳版との、2つだけです。
 そんな、全くと言っていいほどの知らない人の割には、勝手に親近感を抱いています。村上春樹は、JR中央線・国分寺駅の近くで「ピーター・キャット」という飲食店を営んでいたそうです。しかも、ビルの地下にあったそうです。
 ええーッと。中央線沿線にある地下の飲食店。ずいぶんと根拠の薄い親近感なのですが…

 さて、表題の本です。
 非常にのんびりとした旅行記だと思います。有名な観光地を歴訪するのでもなく、荷物の詰まったリュックサックを背負って自分探しをするのでもありません。給料も出たことだし、今度の週末はヒマだからちょっと遠くへ行こう。レンタカーで宇都宮へ行って、餃子でも食べるか。それとも新幹線で金沢まで行って、魚介類で一杯やろうか。そんな感覚で出かけたような雰囲気です。
 目的地は、スコットランドとアイルランドです。どちらも、ウイスキーの生産地として世界的に名高い所です。とは言え、この本で取り上げられているのは、かなりのピンスポットです。スコットランドでは、アイラ島。「ボウモア(※)」や「ラフロイグ」などの個性的なシングルモルトウイスキーが生まれる土地ですが、淡路島くらいの面積しかない島です。アイルランドに至っては、人口5,000ほどのロスクレアという小さな町、しかもその町にあるごく普通のパブです。
 せっかく地球の反対側まで行って、これかい?と物足りない気分になるかもしれません。壮麗な描写が連なるわけでもないですし、歴史の重みを感じさせる記述も、少ないです。旅行ガイドブックに欠かせない“見どころチェック”もないですし、みやげ話に期待しがちな小さな冒険譚も、ありません。ウイスキーの生産地に行って、うまいウイスキーを飲んできたよ。ただそれだけの報告、と言っても良いでしょう。
 しかしながら、うまいウイスキーを飲むためには有効な一冊の参考書だ、と断言できます。

 弊店の本棚に置いておきます。ぜひ読んでください。もしあなたの興味がウィスキーに向かっているなら。

(※)書中に“ボウモア蒸溜所のマネージャーであるジム”という人が出てくる。数年前、ある商社の催したウイスキーのセミナーでこの人が登場した。ボウモア蒸溜所ではなく、ブルイックラディ蒸溜所のマネージャーだった。セミナー会場でやんやの喝采で迎えられていて、なぜこんなにも人気があるのだろう?と不思議に思った記憶がある。あぁなるほど、そういうことだったか、と合点がいった次第。

by connection1970 | 2017-01-27 15:39 | 本に関する話題 | Comments(0)
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