一冊の本を紹介させてください。
加藤定彦『樽とオークに魅せられて―森の王(クエルクス)の恵み、ウイスキー・ワイン・山海の幸』TBSブリタニカ 2000年

著者の加藤氏は、サントリーで長くウイスキー樽の仕事をしていたそうです。
この本には、ウイスキーやワインの貯蔵・熟成に使われる樽と、その材料となる樹木のオーク(学名:クエルクス/日本ではブナ科コナラ属)について多くの有益な情報が集められています。お酒の中でもとりわけ洋酒がお好きな人、それから洋酒に携わる職業の人には、ぜひ読んでいただきたいです。
私たちは、「Aのウイスキーはうまい、でもBはいまひとつ…」と評価をして、楽しんだりします。確かにそれはそれで、面白いことが多々あるかとは思います。しかし、飲み切れないほどのウイスキーの群れを相手に順番や点数を付けてみても、当座限りの遊興に過ぎないのではないでしょうか。
…などと、ウイスキーについてそれほど詳しくない私が、ずいぶんエラそうなことを書いてしまいました。
ただ、一つ声を大にして言いたいこと、つまりこの『樽とオーク~』を読んで改めて深く認識したことは、「オーク樽で貯蔵・熟成してこそウイスキー」であり「オークなくしてウイスキーは生まれない」ということです。
オークの木は、静かな森の中で長い長い年月をかけて育ちます。それを伐採し、乾燥させ、加工して樽にします。ウイスキーはその中で、少なくとも数年間、長ければ20年以上もの時間をかけて、熟成していきます。
一旦ウイスキーを払い出した樽には、また新たなウイスキーが満たされます。1個のオーク樽は60~80年もの間、現役の“ウイスキーの揺り籠”として活躍するそうです。
この悠々とした流れに対して、限られた数のウイスキーをちょっとだけ口にする程度で優劣を云々するゲーム。どれだけ小さなことに、私たちはこだわっているのでしょう…