一冊の本を紹介させてください。
稲垣眞美『日本のビール』中公新書 1978年

一昨年(2014年=平成26年)~昨年(2015年=平成27年)にかけて、NHKの連続テレビ小説で『マッサン』が放送されました。ニッカウヰスキーの創業者:竹鶴政孝とその妻:リタをモデルとしたこのドラマの影響で、ウイスキーの人気がずいぶん上がりました。おかげで弊店でもウイスキーのご注文がずいぶん増えたのは、言うまでもありません。
ところで、『マッサン』を見ながら、ふと気になったことがありました。ビールが全く登場しない…ドラマに描かれている時代は1920年代(大正~昭和初期)以降だから、どこかに出てきてもおかしくないんじゃないかな…?宴会の卓上や街の飲食店の情景にも、ビールは置かれていませんでした。竹鶴政孝は日本酒の酒蔵の出身であり、寿屋(現:サントリー)の“赤玉ポートワイン”(現:赤玉スイートワイン)の品質改善にも貢献していました。その経歴をより強調するために、意識的にビールを外しているのだろうか?と推測していました。
そんなタイミングで古書店の棚で見付けたのが、標記の本でした。もともと学校で歴史系のことを多く勉強した(させられた?)こともあり、店先でパラパラとページをめくってみて、こりゃ面白そうだぞ…と感じました。
幕末から刊行年あたりまでの、日本のビール製造・販売・消費に関わる事項がまとめられています。自分なりに把握した大まかな流れを、以下に記しておきます。
①江戸時代にオランダ経由でビールの製造方法が日本へ伝えられ、幕末の蘭学者がそれを知っていた。
②明治初期に日本へやってきた欧米人は、日本国内での現地生産に着手した。
③日本人は生産ノウハウを吸収し、さらに官営によりビールを製造した。
④日本の西欧化と歩調を合わせて消費が伸び、多数の民間企業が製造するようになった。
⑤何度かの業界再編を経て、第二次世界大戦後にほぼ現在のパターンになる。
⑥戦後は製造技術も進歩し、多様なビールが楽しまれつつある。
では、『マッサン』の時代は?
上記の流れの中では、④になります。明治の終わり頃にはビールの製造も個人消費も成熟しており、かなり一般的なアルコール飲料として出回っていた、と考えられます。
ドラマではビールを意図的に排除していると思われ…こりゃ史実と違うんじゃないのか!?なんて一瞬声を荒げようとしましたが、ドラマはあくまでもドラマ、であります。テレビ番組として楽しく見られるように、創作してあるワケなんですよねぇ。